20190916シェーグレン学会レポート2
2019年9月13日(金) 徳島大学 長井記念ホール
第28回 日本シェーグレン症候群学会学術集会
徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔分子病態学分野 教授 石丸 直澄 会長
シンポジウム1 「SS・IgG4RD 病態機序と臨床応用」
座長:高橋 裕樹 先生(札幌医科大学)、武井 正美 先生(日本大学)
徳島で行われた第28回日本シェーグレン症候群学会の最初のシンポジウムは「SS・IgG4RD 病態機序と臨床応用」というタイトルであったが、IgG4関連疾患(IgG4-RD)研究に取り組む4名の演者が選ばれ、実質的にはIgG4-RD病因論の最新知見がテーマとなった。
前原 隆 先生(九州大学)
IgG4-RDは、細胞障害性CD4陽性T細胞(CD4+CTL)と濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞)を特徴としたCD4陽性T細胞とB細胞との相互連関を軸とした疾患である可能性が報告された(Maehara, Int J Oral Maxillofac Surg, 2019)。CD4+CTLのTCRレパトアは、オリゴクローナルであり何らかの抗原を認識して増加している可能性がある(Mattoo, J Allergy Clin Immunol, 2016)。また罹患臓器でもこのCD4+CTLは増加しており、臓器線維化と細胞のアポトーシスに関与すると推測される。さらにTfh細胞は、IL-21およびIL-4を産生してIgG4-RDにおけるB細胞のクラススイッチを促進する(Maehara, Life Sci Alliance, 2018)。これらのCD4陽性T細胞のIgG4-RD病態への関与について、さらなる検討を要する。
塩川 雅広 先生(京都大学)
IgG4-RDの一病型である自己免疫性膵炎(AIP)患者の血清中に、抗ラミニンα5β1γ1抗体(抗ラミニン511抗体)を発見した(Shiokawa, Sci Transl Med, 2018)。抗ラミニン511抗体はAIPに特異的であり、他の自己免疫疾患や膵疾患では検出されない。また、同じIgG4-RDの中でもAIPに特異的である。病態に関与する抗ラミニン511抗体の主要なサブクラスは、IgG4ではなくIgG1である(Shiokawa, Gut, 2016)。抗ラミニン511抗体陽性患者のAIPは膵体尾部に病変を有することが多く、アレルギーや悪性腫瘍の合併例はまれである。一方、悪性腫瘍を合併するAIP例においては、別の細胞間接着分子に対する新規の自己抗体を認めた(未発表)。IgG4-RDのサブグループごとに、異なる分子に対する自己抗体が存在するという仮説を立て、解析が進められている。
中山田 真吾 先生(産業医科大学)
IgG4-RDの末梢血免疫細胞サブセットを、NIH/FOCISの標準化プロコール(Maecker, Nat Rev Immunol, 2012)に従いフローサイトメトリーで解析したところ、形質芽細胞(分化したB細胞)、濾胞性ヘルパーT細胞(Tfh細胞)、制御性T細胞の3者が有意に増加していた(Kubo, Rheumatology (Oxford), 2018)。さらに、患者末梢血および病変組織においてフラクタルカイン受容体(CX3CR1)陽性のヘルパーT細胞の増加を認め、解析の結果、Tfh細胞とTヘルパー-1細胞(Th1細胞)の両者の特徴を併せ持っていた(未発表)。In vitroの検討では、このCX3CR1陽性Tfh/Th1様細胞はIL-12を介したシグナルにより分化し、形質芽細胞分化およびIgG4産生を誘導することが示唆された。このようなハイブリッドな機能を有するT細胞のIgG4-RDへの病態寄与および治療標的としての妥当性について、更なる検討を要する。
吉藤 元 先生(京都大学)
2014年にIgG4-RD確定診断166例を集積した時のデータ(Shirakashi, Sci Rep, 2018)を用いて、IgG4-RDの各臓器病変と、性別・アレルギー・悪性腫瘍との関連を検討したところ、頭頚部病変は、女性およびアレルギー性疾患合併例に多く、腹部・後腹膜病変は、男性および悪性腫瘍合併例に多かった(Yoshifuji, EULAR2019)。アレルギーおよび悪性腫瘍が、IgG4-RD内のそれぞれ別のサブグループにおいて発症に関与する可能性が推測される。マウスはIgG1-3しか持たないが、ため、ヒトIgG4分子を導入したIgG4ノックインマウスを作成した。MRL/lprマウスと交配したところ、血中に高濃度のIgG4が検出され、脾臓において多数のIgG4陽性形質細胞が観察された。このマウスを用いてヒトIgG4の生理的機能の解析を進めている。
(文責 吉藤 元)